【3367】 ○ 渡部 卓 『あなたの職場の繊細くんと残念な上司―なぜか若手が育たない本当の理由』 (2020/09 青春新書INTELLIGENCE) ★★★★

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啓発的かつ実践的。「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かった。

あなたの職場の繊細くんと残念な上司.jpg 『あなたの職場の繊細くんと残念な上司 (青春新書インテリジェンス)』['20年]

 自分の意見を言えなかったり、強く注意すると会社を休んだり、言いづらいことはメールで伝えてくる――といった繊細な若手社員が増えているのはなぜか? そんな若者を良かれと思った指導でつぶしてしまう残念な上司にならないようにするはどうすればよいか? 本書は、かつて企業に勤め、現在は大学教員であり、職場でのコミュケーション、メンタルヘルス問題や若者意識に詳しい著者が、世代間のギャップを考察し、若手を伸ばすリーダーや職場の共通点を明らかにしたものです。

 まず、著者は、いまNOをはっきり言えないといった繊細な若者が増えていることを指摘し、彼らがひ弱で繊細に見える理由として、①中高年には見えにくい「不安心理」、②多様性の時代に高まる「同調圧力」、③「doingからbeing」への人生に求めるもの変化、の3つがその言動の背景にあるとしています。

 第1章では、上司には見えない「不安心理」の背景には、彼らが不透明かつ不安定な時代を生きてきたことがあるとしています。彼らは常に「(Comfortable ℤone(居心地のいい空間)」に身を置きたいという気持ちが強く、会社にそうした居心地のいい空間があるかどうかを、会社の規模や知名度、給料の高さよりも重要視するとしています。たとえば、若手社員の定着率は、緩やかながらもお互いに支え合える「横の人間関係」の有無に左右されるとしています。

 第2章では、自分の意見をはっきり言わず、遅刻を注意したら退職したとか、飲み会・社内イベントの幹事をやろうとしない、海外勤務や転勤をきっぱり断る、といった最近の若者の言動の背景には、「doing(形のあるもの)からbeing(形のないもの)」への価値観の変化があり、外面よりも内面の充実を重視するようなっていて、旧来の価値観を押し付ける上司は、若手を追い込む「同調圧力」として避けられ、できる上司ほど自身の価値観を部下に「強要」しないとしています。

 第3章では、いま日本では、ハラスメントを恐れて部下にダメ出しできない上司が増えているとし、中高年の管理職が部下に言いにくいことを伝えるときは、これまで述べてきた若者の特徴を踏まえ、「かりてきたねこ」に留意すべきであるとし、「か:感情的にならない」「り:理由をきちんと話す」「て:手短に済ませる」「き:キャラクターには触れない」「た:他人と比較しない」「ね:根に持たない」「こ:個別に伝える」の7つのポイントについて解説しています。

 第4章では、できるリーダーとは、若手の力を引き出す共感のマネジメントができる人であり、若手の力を引き出す近道は、何をおいても「傾聴」であるとし、残念な上司は「指示」を出し、できるリーダーは「質問」をするとしています。

そして、部下との信頼関係を築く、以下の6つのポイントを紹介しています。
 1.100点か0点かで判断しない
 2.「いつも~だ」と考えない
 3.「マイナス思考」「マイナスだけを通すフィルター」を持たない
 4.事実から離れない
 5.「すべき思考」にはまらない
 6.レッテルを貼らない

 また、部下の成長応じて、指示は4段階で変えるようにとも(SL理論)。
 ・成熟度1(その仕事の未経験者)→「指示型」の指導
 ・成熟度2(ある程度自分でできる)→「コーチ型」の指導
 ・成熟度3(その業務に精通している)→「援助型」の指導
 ・成熟度4(専門性を持ち成果がだせる)→「委任型」の指導

 最後に「繊細な若手社員の力を引き出す、以下の6か条を紹介しています。
 1.賞罰や競争、比較をからめないこと
 2.共同体の感覚を持たせる
 3.YES・NOの表明を強要しない
 4.不安に共感し、不安を共有する
 5.相手の考え、環境、生き方に共感する
 6.責任を口にしない

 例えば、最後の「責任を口にしない」。「おまえたちのやりたいようにやってみろ。その代わり全力投球しろ。責任は俺が取るから心配するな」と、こんな啖呵を切っても、今の若手社員にはたいして響かず、彼らは「自分に酔っている」とか「耳あたりのいい台詞だけど、こっちにプレッシャーをかけている」と見透かしているとのことです(笑)。責任を強調して部下を追い込むのではなく、上司と部下で役割は違えど、同じ目的に向かっていく仲間として、ともに力を合わせていくことを伝え、それを共有していくことが求められている(179p)ということなのでしょう。

 いろいろ気付きを与えてくれて啓発的であると同時に、実践的な内容でもあったように思います。多様性の時代、働く部下のワーク・ライフ・バランスを理解し、彼らと価値観や倫理観が共有でき、良いコミュニケーションが取れることが、これからの上司に求められる資質であるとの思いを抱かされました。会社としても、そうしたことを後押しする社内環境の整備を考えるべきで、ただ、若い社員には愛社精神を持ってほしいと思っているだけでは何も変わらないのでしょう。

 著者の過去の著書の傾向からメンタルヘルスの本かと思いましたが、タイトル通り「上司学」の本でした。「新しい時代の上司学」とまで言ってしまうとどうでしょうか。SL理論をはじめ、リジッドなリーダーシップ理論も織り込まれていたように思います。でも、「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かったように思います。

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This page contains a single entry by wada published on 2024年1月21日 16:51.

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